第10回 ITS(高度道路交通システム)と国際規格
私はこのコラムの中で、折にふれて車の例を引き合いに出しています。モビリティの進化というのは見ていて心躍るものがあり、私は昔から注目しているのですが、最近もっとも注目しているのは高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)です。
世代的に私は、マンガ『鉄人28号』の挿入歌「ビルの街にガオー」を聴いて育ちました。マンガでは、高層ビルがそびえ立つ街並みが未来都市として描かれているのですが、これはまさに現代です。そうするとこれから先の20年というのは、新しい未来都市の創造期にあたるのではないでしょうか。
自動車はガソリンからハイブリットの省エネになり、いわゆる環境配慮型の電気自動車や水素による燃料電池自動車へ大きく進化していこうとしています。鉄腕アトムに出てくる、ハート型超小型原子力エネルギーのようなものが生みだされ、半永久的に動く自動車が走る世界を想像したこともありましたが、品質の視点から考えたとき、品質は「企画~廃棄」までのすべてのプロセスにおいて検討されるべき項目ですから、その「廃棄」の点からも解決策の見いだせない原子力は生き残りが難しいでしょう。
安全性の規格って?
さて、自動車分野では動力系が注目されがちですが、ITSの世界では、情報端末としての観点から、安全性を向上させる技術についてのさらなる進化と市場拡大が期待されています。
衝突防止や、ブレーキ/アクセルの踏み間違い防止技術はすでに商品化されていますし、また、車車間通信と車線維持制御技術を利用しての隊列走行システムについても実用化が待望されています。実現すれば、ドライバーの負担軽減は事故の抑制に一役買いますし、また流体シミュレーションの結果だと、大型トラックが隊列走行した場合、中間車で50%、最後尾車では25%もの空気抵抗が軽減され、燃費においても15%の省エネが可能となるようです。
これを現実のものにするのがIT技術であり、画像認識装置や制御システムです。自動運転は、きっと遠くない将来に私たちの日常になっていくでしょう。高速道路をきれいな隊列をなして車が走行する姿は、カルガモの親子のように見えるかもしれませんね。
さぁそして、ここにも規格や基準が定められています。国際標準規格IEC61508では、安全機能の水準としてSIL(Safety Integrity level)を定義しており、自動車の制御に関しては最高レベルのSIL4を要求しています。SIL4、これは作動頻度の高い機能における失敗(故障)の平均確率が極端に低いこと、また原因を自己診断し自動修復できる機能を有していることなどが求められています。命にかかわるシステムですから、これらの高難度な規格要求をクリアしたものだけが世界中で販売できるわけですね。
自動車×ITで商機を見出す
また、こんな使い方も期待されています。
情報端末として走行する自動車からは、渋滞状況の把握や降雨などの気象情報といった様々なデータを収集することができます。ということは、たとえば交通量データから信号機を自動でコントロールして渋滞緩和へとつなげることも可能になりますよね。
また、災害時などは電源供給システムとしても活用できますし、走行可能な路線を検索し、適切な救助ルートを確保することも可能となります。
これらのビッグデータ活用の可能性は無限にあります。ビジネスチャンスという意味でも、「午前6時現在、首都高速から中央高速方面の走行が通常の30%増、○○インター出口は20%増です」という情報ひとつをとっても、たとえば週末や大型連休で早朝の走行傾向を分析したものを観光地などへ提供できたら、それ相応の対応ができます。このように、自動車から得られる情報は、その活用方法で多くの人に幸せを提供することが可能となります。
高い技術力があるからこそ…
ITS開発投資は海外の自動車メーカーにおいても盛んです。アメリカでは米国運輸省が主体となって自動車メーカー、道路管理者、通信業者等が一体となって取り組んでいますし、欧州ではECが中心となって標準化を進め、協調型ITSの実現を目指しています。
標準化動向については、日本は国としての支援が他国と比べて弱いと以前お話しましたが、重要産業である自動車に関しても同様です。私は、このことが本当に問題であると感じています。ただそれでも、これまで先行してきた研究が無駄になってしまわないよう、会議には多くの技術者が参加し、有利となるよう働きかけを行なっています。
読者の皆様にはぜひ規格の重要性を知っておいていただきたいですし、「品質=国際規格」であることを改めて強調します。