catch-img

第11回 パッケージソフトウェア品質認証制度(PSQ認証制度)

以前お話したPSQ認証に関して、まだ少し話し足りないところがあり、今しばらくお付き合いください(PSQ認証の内容に関しては、第3回-第4回の記事をご参照ください)。

認証を取得する企業側のメリットとしてお話したのは以下のような内容でした。

  • 製品に認証マークが付くことによる企業に対する安心感や信頼の向上
  • 認証を取得していない競合との差別化が可能
  • 海外進出への準備として役立つ


​​​​​​​ここに2点を追加したいと思います。

  • OEM供給における相手先企業とのスムーズな連携
    製品の品質を示す指標を持たない場合、相手先の基準によってテストを再実施する必要が生じる場合が多いです。一定の品質水準をクリアしていることを相手先に示すことにより、スムーズなOEM供給を可能にし、時間ロスなどによる機会損失を防ぐことができます。

  • 社内品質基準/体制の見直し(付帯的メリット)
    これまで基準が曖昧なままテストを行なってきた開発会社としては、手法を設定する機会となります。認証の申請のためには社内の試験文書を整理しなければなりません。その際に、どの観点(品質特性)に基づいたテスト手法なのか明確にしながら、その結果ならびにその後の修正履歴などを整理できます。



そのお金は出費なのか、投資なのか。

「品質はコスト増ではない」とは、私がこのコラムでよくお伝えしていることですが、「品質は売上を左右する重要な指標にはならない」と思っている企業はほぼないでしょう。ただ、具体的な取り組みに落とし込めていない企業はまだまだあります。

その場合も、このような認証制度を利用すれば、一定の基準が目安としてありますから、テストすべきポイントに注力し効率的に取り組むことができますよね。
ただ、人命にかかわる分野(原子力や医療、乗り物など)では、高い水準が求められる分、その分費用がかかるというのはあります。しかし、社会から信頼される企業として発展していくためには、一つ一つの基準をクリアしていく、地道な積み重ねの作業が大事になります。

ですから、これを出費と考えるのではなく投資としてとらえ、中長期的な目線で回収していくことを考える必要があります。経営に携わっていると、つい目の前の数字にばかり気をとられてしまいがちですが、忘れてはいけない視点であると思っています。



ガイドライン制定の日

思い出話になりますが、PSQ認証を開始する記者発表は、2013年6月、ホテルオークラのメイプルルームにて行われました。その日は同時に国の直轄である、独立行政法人情報処理推進機構ソフトウェア高信頼化センター(IPA /SEC)の「ソフトウェア品質説明のための制度ガイドライン」公開の発表も行われました。これは、ソフトウェアの品質を第三者が確認する制度を構築する際の指針をまとめたもので、PSQ制度もこのガイドラインに準拠しています。国の機関と同じ壇上で記者発表できたことの意義は大きいと思いましたし、国が第三者による品質の見える化の必要性を明言し具体化したことは、ITの歴史に残る記念日なのではないかと感じたのを今でも覚えています。

「ソフトウェア品質説明のための制度ガイドライン」は、先ほども申し上げましたが、第三者による(製品/システムの)品質確認制度を構築する際の要求事項(43項目)等を下記の観点でまとめています。

  • 公正性の確保
    製品やシステムを確認する第三者と供給者の独立性の確保
    制度に関与していない外部者による制度のレビューの実施 等

  • 整合性の確保
    製品・システムの分野に依存しない要求事項
    分野毎に異なる品質要求や技術に対応した審査基準策定の考え方 等

    ※2013年6月12日IPAプレスリリースより抜粋

これにより様々な製品やシステム分野で業界団体が公正で整合性のとれた制度構築をすることができるということです。




第10回でITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)におけるモビリティの進化について触れ、安全の重要性について書きましたが、この2013年のガイドラインの制定が、安全性を確保すべきソフトウェアに関して重要な意味をもたらしたことは言うまでもありません。ITSは今後も発展を続ける分野であることは間違いありませんが、その道の途中では必ず規制緩和の声が高まると思います。

私は柔軟性というものも非常に重要視していますが、一方、先にもお話しましたが、ITS分野は人命がかかわるだけに、品質や安全を第一に考慮しながら、慎重に検討していかなければいけません。そして私は、その検討の結果がどうであれ、その時に求められるルール(基準)に則ったうえで、より良い製品をつくり、提供することが、企業としての使命であると思っています。


少し古くなりましたが当時の掲載されたWeb記事で残っているサイトを紹介します。
 
■Web掲載分
○IT-PROニュース - CSAJがパッケージソフト品質認証制度を開始
 http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20130612/484561/
○ ZDNet Japan -CSAJ、認証制度を展開 -
 http://japan.zdnet.com/cio/analysis/35033310/

藤井 洋一
藤井 洋一
■略歴  1985年 金融機関退職後、現在の会社を創業  2005年 一般社団法人IT検証産業協会の設立に関わり、ソフトウェア品質向上の活動を推進。2016年から会長を務め、2023年6月より監事として活動中  2013年 一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:ソフトウェア協会)においてソフトウェア製品の品質認証制度(PSQ認証制度)を委員長として制度設計、運用開始  2016年 一般社団法人IT団体連盟の発足に参加、理事及び政策委員として活動。2023年諮問委員会 副委員長として活動中  2018年 「情報銀行」認定制度の制度設計サポート  2019年 工業標準法に基づく試験事業者登録制度(JNLA)等に係る試験事業者技術委員会電磁的記録分野技術分科会委員  ■その他の活動  独立行政法人情報処理推進機構にて「品質説明力強化のガイドライン」作成委員として執筆  ソフトウェア製品の国際規格「ISO/IEC 25051」のJIS化委員