第4回 パッケージソフトウェア品質認証についてⅡ
品質基準研究部会を開始して間もなく、独立行政法人情報処理推進機構のソフトウェアエンジニアリングセンター(以下、IPA/SEC)※1 において「ソフトウェア品質監査制度(仮称)」制定に向けてのプロジェクトがスタートしました。
これは、アメリカでおきた日本車による事故が、ブレーキシステムの不具合が原因ではないかと指摘されたことを受けての制度化の検討プロジェクトでした。不具合の報告が遅れたという理由で百億円単位の罰金を要求され、社長が米国の国会公聴会に呼ばれ証言するなど、国内外で大きなニュースになりました。
ここでも問われる第三者検証の重要性
「ブレーキシステムの障害はない」と断言した社長でしたが、国会議員からの「誰がそれを証明するのか」という質問に対し「自社内の品質保証部である」と回答したことで、「社内の保証などあてにならない」と全面否定されてしまいました。まさに日本と世界の常識の違いです。
その後NASAの検査機関に依頼し、結果的には検査・検証され不具合はなかったと結論が出ましたが、その間の信用は失墜し業績にも大きく影響を及ぼしました。はじめから品質を第三者が認証していたら、ここまで大きな問題には発展しなかったと思います。
実はこのプロジェクトにSAJを代表して私も委員として参加していました。私たちの組み込み系の開発と彼らのようなエンタープライズ系の開発では分野が異なりますが、その背景や目的という意味では全く同じであり、協調していく意義は大きいと判断したのです。
なおこのプロジェクトの成果に関してはIPAより「つながる世界のソフトウェア品質ガイド」として出版されました。
ようやくベースとなる基準を発見!でも・・?
話はPSQ認証にもどります。
ベースとなる基準を探していたところ、2011年11月に日本工業規格からJISX25051がリリースされるという情報を入手しました。調べてみると「ソフトウェア製品の品質要求及び評価-商用既製(COTS)ソフトウェア製品に対する品質要求事項及び試験に対する指示-」というまさにPSQ認証の基準そのものでした。しかもベースはISO/IEC2051の日本工業規格であり、世界共通の規格でした。
早期に入手したいと思い関係者とコンタクトを取ろうとしたところ、NECの技術者が編集幹事であることが分かり協力を仰ぐことにしました。日本語版のリリース前にβ版を提供していただき、内容の精査を行いました。
その結果、PSQ認証の基準に合致していることは確認できましたが、問題はその文書の表現方法が一般に理解できるレベルではないことでした。英文を和訳したことによる問題ではなく、法律文書のように曖昧な表現が多用されているため、どのように理解、解釈してよいのか、おおいに悩ませられる内容でした。
2011年、4月の新年度となった段階で、研究部会から委員会に昇格し、具体的な実現に向けての活動としてJISX25051の解説書(コンメンタール)作成の作業を行うことにしました。記述されている文言が、実際の開発やテスト工程においてどのような内容にあたるのか、できるだけ具体的に事例を挙げながらの解説書作成となりました。
理解に悩む文書は原文の英語版と見比べ、それでも理解できない表現は、編集担当者であったNECの技術者に協力を仰ぎながら作業を進めました。委員会の参加者はみな、それぞれ通常の業務を持っていましたので、夜間や休日を割いての作業となりました(それもすべてボランティアで!)。彼らには今でも頭の下がる思いでいっぱいです。
作業開始から約一年、編集協力も得てβ版ながらリリースできたことは感無量でした。本当に素晴らしい人材に恵まれたと感謝しています。
一歩一歩、着実に前へ
せっかくリリースしたガイドブック※2 ですが、ベースとなるISO/IEC25051は2006年にリリースされており、日本語化されるまでに5年が経過しており2011年よりその改訂作業が始まっていました。
そこでSAJとしても世界標準を有利に進めるため国際会議に委員の派遣を行うことに決め、英語が堪能な若手に参加を依頼し、日本の発信力を高めるよう努力を始めました(本当はみずから足を運びたい気持ちもあったのですが、英語が話せないという大きな欠陥を抱えていたため断念しました)。
たとえ小さな国際規格であっても、日本が主導権を持って作成している意義は大きかったと考えています。
※1:ソフトウェアエンジニアリングセンター(以下、IPA/SEC)は、現在は社会基盤センターに名称を変更しています
※2:PSQ制度に関する詳細は、SAJのホームページをご参照ください。