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第3回 パッケージソフトウェア品質認証について

それでは今回より、具体的なパッケージソフトウェア品質認証制度(以下、PSQ認証)についてお話していきます。 
PSQ認証は、一般社団法人ソフトウェア協会(以下、SAJ)が主体となって基準作成から審査、認定を行います。


SAJは1982年にパソコンソフトウェア関連会社22社で設立された団体で、初代会長は、現在ソフトバンクグループの孫正義代表取締役会長兼社長執行役員でした。4年後の1986年に経済産業省から社団法人の認可を受け、2012年に一般社団法人に移行し、同じく1986年にはITS健保を設立、その後基金も設立し、3団体が三位一体となり活動しています。


健保の被保険者数は約46万人と国内でも最大の組織となっています。現会長は、さくらインターネット株式会社の田中邦裕社長で、最先端のクラウドビジネスの若手経営者です。


SAJの最大の特徴はその会員構成で、60%弱が社員数50名以下の会社で、300名以下の会社を含めると実に80%強が中小零細のソフトウェアベンダー680社で構成されています。そしてその大半がパッケージソフトウェア開発・販売を行っており、会員にとって生命線となる制度であるともいえます。


それでは、どんな背景でPSQ認証を始めることになったのでしょうか?様々な意見が上がりました。 

  • 渾身のパッケージソフトを開発し、販売ルートに乗せるべく大手販売会社と交渉したが実績が無く、品質を確認できないことを理由に販路に乗せられなかった。 
  • 大手ベンダーだが、金融機関にOEM供給する際、再度テストの実施を指示され大きなコスト増となり、収益確保が困難となった。 
  • 海外進出の際、認証を求められることが多い。 
  • 購入者に製品の安心基準を提供したい。 

、、、等々、上記のような問題を解決する手段としてPSQ認証をスタートさせました。



認証制度のスタートは試行錯誤の連続

2010年4月、技術委員会の研究部会として「品質基準研究部会」が発足、パッケージソフトウェアの品質可視化と差別化、ブランド化、付加価値向上を目的としました。



実は当時、パッケージソフトウェアの基準であるISO/IEC25051という国際基準が存在していることすら、私自身知りませんでした。研究部会に参加していた優秀なメンバーのことも知りませんでしたから、日本人が世界規格にいかに興味を持っていなかったかがわかると思います。


そのような状態からのスタートでしたから、まずは基準探しから始まりました。


最初の候補は一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(以下、JUASという)が経済産業省から受託してまとめた「要求仕様定義ガイドライン」「非機能要求仕様定義ガイドライン」でした。これは、品質特性単位に要求される粒度を明確にしてスコアリングできる、具体的なガイドラインを設定した貴重な資料です。素晴らしい内容でしたが、大きなスクラッチ開発を想定しているため、パッケージソフトウェアへ応用させるにはかなりの労力が必要となると感じました。


そこで並行して世界的にPSQ認証のような制度が存在しないか調査したところ、ドイツやカナダ、オランダなどで、民間ベースで認証しているケースが見つかり、その中でも国レベルで認証していたのが、韓国の「Good Software(GS)」認証制度でした。



GS認証制度とは?

GS認証制度は韓国TTAという組織が運営し、日本で言うところの総務省と経済産業省が一緒に運営しているような組織で、巨大なテストベッド環境を有し、有望なソフトウェアテスト・検証を行い認証しています。


特筆すべきは、この認証を取得することのメリットが明確であるという点です。認証を取得すると、企業規模に関わりなく公共機関の入札に参加が可能になり、また不具合が発生してもその責任を問われることが無いというメリットがあります。加えて損害保険に安価な金額で加入でき、銀行からも低金利で融資が受けられます。国策として推進し、必要な法律は大統領令として適時発布できるスピード感も、制度が成功している要因でしょう。


中小零細企業が国内需要に応えるべく活動し、その中で世界に通じる優秀な逸品ができた際には、国が全面的にバックアップして海外進出を支援することが制度の基本方針として明確に掲げられているのです。大変参考になる制度だったため、2011年2月には、韓国から招聘し講演も行なっていただきました。



制度の背景にあるもの

その講演の際、私の印象に深く残った話があります。
それは、韓国の制度が生まれた背景には、”品質が悪い”ことをどのようにして改善するかを検討した結果、国策として対応することになったという内容です。

この点では、日本はまったく事情が異なりますよね。日本では品質が悪ければそもそも売れませんから、はじめから必要以上に神経質になって品質を追求しています。

そこで私は「“品質が良い”ことを認証して支援する制度にする」という方針を固めました。二重三重に企業に負担をかけてはコスト高になり、競争力を失ってしまいます。日本で韓国のような支援は望めない状況において、対象としている中小のソフトウェアベンダーを支援するにはどうしたら良いのでしょうか?苦悩は続きました。


藤井 洋一
藤井 洋一
■略歴  1985年 金融機関退職後、現在の会社を創業  2005年 一般社団法人IT検証産業協会の設立に関わり、ソフトウェア品質向上の活動を推進。2016年から会長を務め、2023年6月より監事として活動中  2013年 一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:ソフトウェア協会)においてソフトウェア製品の品質認証制度(PSQ認証制度)を委員長として制度設計、運用開始  2016年 一般社団法人IT団体連盟の発足に参加、理事及び政策委員として活動。2023年諮問委員会 副委員長として活動中  2018年 「情報銀行」認定制度の制度設計サポート  2019年 工業標準法に基づく試験事業者登録制度(JNLA)等に係る試験事業者技術委員会電磁的記録分野技術分科会委員  ■その他の活動  独立行政法人情報処理推進機構にて「品質説明力強化のガイドライン」作成委員として執筆  ソフトウェア製品の国際規格「ISO/IEC 25051」のJIS化委員