第12回 品質の見える化の事例
私見ですが、これからの「品質の見える化」は業界団体が主体となって行われると考えています。業界が旗振り役にならず、一社ごとに取り組むことでも差別化はできますが、業界としての品質の水準が示されることで、利用者サイドでの判断基準をより一層分かりやすく、一目見て分かるイメージとして提供できるからです。
我々ソフトウェア業界での、ISO/SECの規格認証を使った品質の見える化もかなり行われてはいるのですが、まだまだ普段の生活で身近に感じていただけるところまで到達できていないので、今回は身の回りで見つけられる、品質の見える化の成功事例についてみていきましょう。
食品業界の見える化
特定保健用食品、いわゆる「特保マーク」 ※2023年8月での認可は1053品目
特定保健用食品は効果別で分類され、整腸、コレステロール、血圧、骨ミネラル、歯、血糖値、体脂肪となっています。その中でどの製品が売れるかは時代のトレンドや企業のブランド戦略にも関わってきますが、当初は整腸作用のある商品が大きく売上を伸ばし、2011年以降は血圧や体脂肪に効果のある商品の売上が伸長しています。
1997年には1,300億円程度の市場でしたが、ピークの2007年には6,800億円の市場にまで成長し、現在は6,586億円規模として推移しています。企業側の申請費用としては4,000万~1億円程度かかりますが、それでも収益性を確保できるほどの大きな市場です。
- 年齢とともに健康を意識したいが、どれを選んだらいいのか分からない。
- 忙しい生活でリズムが乱れ、健康に不安がある。効果などに詳しくはないが、少しでも身体にとってよいものを選びたい。
- 特保マークのブランド性によって“自己管理できる人”という良い印象を周囲に与えることができる
上記のように、個人が特保マーク製品に手を伸ばす背景は様々ですが、他の製品より販売価格が2-3割高かったとしても、それだけの価値を感じられるということです。健康というのは私たちの根幹にあるものですから、人々の関心が失われてしまうことはまずないと考えられます。そこに注目しているのがこの市場の成功要因でしょう。また企業のイメージとしても、健康増進に力を入れている企業だとアピールすることで、印象がクリーンなものになります。
認証マーク以外でも、「見える化」という見方をすると、食品業界では生産者の「見える化 」という取り組みもありますね。スーパーマーケットの野菜コーナーで「私たちが作りました」というポップに、農家の方々のお写真を載せてあるのを見られたことはありませんか?これは、どこで、どんな人たちの手で育てられたのかを消費者に示すことで、安心感を与える効果があります。またここでは、マークではなく生産者の顔を見せるわけなので、消費者側は生産者の人柄や農家の方の苦労を想像することにもつながります。
そうすることで、目の前の食材が急にストーリーを帯びて見え始め、無関心でいられなくなるわけです。これはマークだけでは得られない効果なので、私は初めて目にしたとき「なるほどなぁ」と感心しながら見てしまいました。また、この取り組みは食育にもつながることでしょうから、そういった意味からも意義は大きいですね。
運送業界での見える化
環境マネジメント規格ISO14001
トラック運行の際に排出されるCO2は、どうしてもマイナスのイメージが業界自体に付きまといます。それでもこの認証を取得することで、“削減に対する努力を怠っていない”“環境にやさしい”企業であると胸を張れるわけです。
特に食品関係の物流に携わる企業には必須とまで言われています。食品業界は「人の健康にかかわる食品を、人や地球に配慮した企業が運ぶ」という、環境マネジメントに取り組んでいるトータルイメージを大切にする姿勢を徹底しているのが分かりますね。
自転車業界での見える化
自転車安全基準、いわゆる「BAAマーク」
粗悪品による強度不足から利用者の安全を守ることの他にも、使用されている部品の環境負荷物質についても検査を行なっています。これは、自転車を廃棄する際、環境への悪影響がある物質(鉛(Pb),水銀(Hg),カドミウム(Cd),六価クロム(Cr6+),PBB(ポリ臭化ビフェニル),PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)が基準以上に含まれていないかなどを検査しています。
このように商品の品質マネジメントとは、企画から製造の段階で終わりなのではなく、廃棄までを一貫して考えることにあります。
さて、皆さまの業界はいかがでしょうか。
現在IT業界でいえば、スマートフォンを中心にあらゆる家電がつながっていこうとしていますが、その接続性に関する認証マークを付与しようとする計画もあります。これからの動きにも目が離せません。
読者の皆様もそれぞれの業界の「見える化」を是非ご検討ください。