第23回 利用時の品質から学ぶ(利用状況網羅性について)
前回は利用時の品質のリスク回避性について解説しました。今回もソフトウェアに限らず、すべての製品で検討が必要な利用状況網羅性に関して記述します。
利用状況網羅性について
利用状況網羅性とは「明示された利用状況及び当初明確に識別されていた状況を超越した状況の両方の状況において、有効性、効率性、リスク回避性及び満足性を伴って製品又はシステムが使用できる度合い。」と規定されています。また、利用状況完全性と柔軟性という副特性を定義しています。
解釈としては、想定された利用状況とは異なる場合でも、有効かつ効率的に利用できる可能性をどこまで考慮してあるかと考えてみてください。利用状況のわかりやすい例は、自動車を選ぶ基準です。
速く走れるスポーツカーがほしいのか?
家族で移動できる車がほしいのか?
通勤で使う燃費のよい車がほしいのか?
ママの買い物用セカンドカーがほしいのか?
自動車関連の会社の営業研修でよく言われる例えですが、「たくさん乗れて、200km/hでも安全に走行できて、燃費がよく、しかもママでも運転しやすい小型の車がいいな」と言っても、そんな車はありません。当初から説明していますが、品質には“明示された利用状況”という前提条件が必要なのです。しかし、それにもかかわらず、新しく定義された利用時の品質では、想定された利用状況を超えた場合の満足度合いを要求しています。最初に見たとき、個人的には「なんと無茶な要求項目なんだ・・」と思いました。これは、経理の仕訳がわからない利用者が会計ソフトを購入した場合でも、ソフトウェアが使用可能であることを考慮せよと言っているようなものです。いってみれば軽自動車でも200km/hでサーキットを安全走行できる度合いということでしょうか。しかも柔軟性まで要求しています。
障壁を超えた先に
これは一見すると無茶な要求項目ではありますが、逆にこの品質条件を満足させることができたら、どれだけ素晴らしいシステムとなるでしょうか。そしてこの取り組みこそが、自動車の自動運転であり、人工知能への取り組みとなっています。ソフトウェアの人工知能への取り組みは古く、1980年代の後半でよく言われていました。漢字変換のソフトは、文脈を分析して最適な漢字を表示してくれました。文書作成ソフトは、スペルチェックや文書校正機能を搭載し、利用者が文書の専門家でなくても正確な文書作成を可能としてきました。音声入力の発達も、想定された利用状況の幅を広げた素晴らしい一例といえるでしょう。将来的には音声で取引内容を入力しただけで仕訳が可能となり、専門知識が無くても財務諸表の作成が可能となるかもしれません。
このように、品質要求というのは利用者にとっての要求ですから、それに応えられる製品創りが必要ということになります。ソフトバンクは感情認識パーソナルロボット「ペッパー」を販売しました。非常に安価での提供に市場はびっくりしましたが、これは利用者の感情情報を収集する目的があるためと分析する専門家もいます。将来どこまでロボットが人間の感情を理解できるようになるかわかりませんが、13歳程度の会話が可能となると、感情や理性を持ったロボットと言えるそうです。「ペッパー」のようなロボットが数十万台利用され、毎日の会話情報が収集されてビッグデータとして整理・分析されれば、実現の可能性は高いのではと思えます。
ソフトウェアの利用時の品質に関してのコラムはこれで最後となります。
読者の皆様にすぐにお役にたてたかはわかりませんが、製品創りにおいては絶対に必要な考え方です。何度か読み返して頂いてご理解頂ければ幸いです。