catch-img

第26回 「ソフトウェア試験の概念」~品質は全社での取組が必要~

ソフトウェアに限らず品質と聞くと、「あー当社は品質管理部門があるから」という言葉を良く聞きます。間違いではありませんが品質は一部門やプロジェクト単位で取組むのではなく、全社を挙げて取組むことが一番大切です。品質部門の意思決定者は全社の中でも最高位、もしくはそれに近い権限を持つ人を置くことが重要です。その上で仕事のプロセスを計画し実行することで確かな品質は担保できます。 


組織的試験方針について 

考え方は、「規則・規制・規格・法律」の制限事項を基本に「組織」として品質向上に取組む姿勢を明確にする。その表明として、「組織的試験方針」や「組織的試験戦略」を文書として作成し徹底します。 

「組織的試験方針」 
試験方針は試験で何が達成できると良いかを定義しますが、どのように試験を実施するか詳細な記述は必要ありません。方針を確立してレビューし、継続的な改善を行うための枠組みを提供します。 



試験方針に必要な項目 

​​​​試験方針に必要な項目として10項目挙げられています。具体的なイメージが捉えられるように仮想の会社として説明して行きます。 


「つながるECO株式会社」 
つながるECO株式会社は、いろいろなITC機器がつながる社会に向けての環境状況が見える機器を開発販売している会社である。CO2の測定や電力の消費量を測定し、それを見えるように表示するシステム製品を開発した。測定のハードウェアの品質と、それを表示するソフトウェアの品質の管理を行うための試験方針を策定した。
 
・試験の目的(目標と試験の定義) 
試験の目的は、試験下にあるシステム製品の現在の品質を決めるに十分な情報を提供する事である。また、我々の製品に対して利用者と顧客の信頼を達成する手段である。 
この目的を達成するためのすべての活動がソフトウェア試験とみなす。 
 
・試験プロセス 
ソフトウェア試験の国際標準規格ISO/IEC/IEEE 29119-2で定義されている試験プロセスに基づき、すべての製品開発プロジェクトと連携する。
開発作業と試験作業は同時にスタートすべきであり、計画から実行・報告までを監視して管理すること。 
 
・試験組織の構造 
プロジェクトには、管理者(プロジェクトマネージャー)、設計者、テスト実行者(自動化の場合はプログラマー)試験分析者を適切に割り当てる。
組織として報告・連絡相談を適切に行うこと。 
 
・技術者の訓練 
ソフトウェア試験を担当する技術者は適切な教育を受けさせること。
また、試験に必要な資格か認定を取得するよう教育する。例えば、IT検証産業協会が認定するIVEC試験、JSTQBが主催するテスト技術者資格認定試験を推奨する。 
 
・試験倫理 
ソフトウェア試験を担当する技術者は社会人として、技術者として社会的モラル、会社規定その他ルールを順守する。 
 
・規格 
ソフトウェア試験文書を規定している国際標準規格ISO/IEC/IEEE 29119-3に基づく。 
 
・他の関連する方針 
システム開発方針、ソフトウェア開発方針 
 
・試験の評価 
プロジェクトマネージャーは試験分析者と協力して各試験フェーズの評価を一定の期間内に行いその結果を試験実行者にフィードバックする。 
顧客の受入試験結果に対しての対応報告と共に、どのレベルの品質が達成されたかを明確に報告する。(リスクに対する報告) 
 
・試験資産の保管及び再使用 
全ての試験文書は識別可能な状態で製品保証期間(例えば7年)保存する。 
同一製品の試験には過去のテストデータを活用すること。(回帰試験) 
 
・試験プロセスの改善 
プロジェクト終了時には試験の観点から分析報告書を作成し報告する。 
報告書で提案された内容は組織プロセスの最高位の責任者に提供され教訓、測定方向及び改善方法についての議論を行い、実現すること。

試験方針は以上の項目について各社必要事項について策定します。すべての項目を網羅すべきものではありません。次回は組織的試験戦略についてお話しします。 

藤井 洋一
藤井 洋一
■略歴  1985年 金融機関退職後、現在の会社を創業  2005年 一般社団法人IT検証産業協会の設立に関わり、ソフトウェア品質向上の活動を推進。2016年から会長を務め、2023年6月より監事として活動中  2013年 一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:ソフトウェア協会)においてソフトウェア製品の品質認証制度(PSQ認証制度)を委員長として制度設計、運用開始  2016年 一般社団法人IT団体連盟の発足に参加、理事及び政策委員として活動。2023年諮問委員会 副委員長として活動中  2018年 「情報銀行」認定制度の制度設計サポート  2019年 工業標準法に基づく試験事業者登録制度(JNLA)等に係る試験事業者技術委員会電磁的記録分野技術分科会委員  ■その他の活動  独立行政法人情報処理推進機構にて「品質説明力強化のガイドライン」作成委員として執筆  ソフトウェア製品の国際規格「ISO/IEC 25051」のJIS化委員