第27回「ソフトウェア試験の概念」~試験にも戦略が必要~
前回は組織的試験プロセスの「組織的試験方針」について説明しました。今回は組織内で、どのような試験が実行されたほうが良いかを示す指針を示す文書「組織的試験戦略」について説明します。
組織的試験戦略について
この文書は試験方針で述べられている目標をどのように達成するかを定義する文書です。
戦略は小規模なプロジェクトと大規模なプロジェクトでは異なった戦略であっても問題ありません。生命の安全性に関わるシステムの開発とそれほど社会的影響が少ない製品開発では、それぞれ試験戦略を策定する必要があります。開発手法の違いでアジャイル方式とV字開発方式の違いで別々の戦略を持つことも問題ありません。実際の試験実施(試験マネジメントプロセス)に関する組織としての規定ですから、全体に対して、またそれぞれの試験工程(試験サブプロセス:単体試験、結合試験、受入試験など)に対して分割された戦略を定めても問題はありません。
国際規格では試験方針と試験戦略の文書を合わせて組織試験仕様書と定義しています。この仕様書を策定して準拠を監視し、管理・維持することが組織的試験プロセスです。
組織的試験戦略の主な項目は下記となります。
1.汎用的リスクマネジメント (試験の範囲によって想定されるリスクの洗い出し)
2.試験の選択と優先順位付 (リスクを考え試験の種類と優先順位を検討)
3.試験文書と報告書 (どのような試験文書と報告書を残すかの定義)
4.試験自動化とツール (自動化やツールを使用する場合の定義)
5.試験作業成果物の構成マネジメント(作業成果物の識別と追跡、保管方法の定義)
6.インシデントマネジメント (インシデントの取扱の定義)
7.試験サブプロセス (行うべき試験工程の定義)
また、試験工程(試験サブプロセス)単位で下記の項目を定義します。
1.開始及び出口基準 (試験開始と終了の基準。仕様書のレビューや報告書)
2.試験完了基準 (不具合率○○%以下や網羅率○○%以上の定義)
3.試験文書及び報告書 (作成されなければいけない文書の定義)
4.独立性の程度 (開発と試験部門の独立度合い)
5.試験設計の技術 (設計書の作成レベルの定義)
6.試験環境 (試験実行の組織、実機の環境、データの条件)
7.収集される測定法 (報告されるべき項目:試験時間や不具合数など)
8.再試験と回帰試験 (不具合に対する再試験や全体の回帰試験の定義)
定義するメリット
組織的試験戦略は、監視・管理の立場で現場に対してどこまでの試験を行ってもらうか、行った結果を報告してもらうかを具体的に定義すると考えれば作成が容易となります。また、アジャイルによる開発の場合は、このような詳細の定義は困難となるため、開発責任者の責任範囲や試験リスクを検討させ、試験の独立性の度合いや、どのような試験組織をつくるかを定義する程度で良いと考えられています。