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第28回「ソフトウェア試験の概念」~試験計画の考え方~

試験を行うにはまず計画が必要です。試験計画のプロセスは、プロジェクトのどこで、どのプロセスを実装するかによって各種試験計画書を作成します。例えば、プロジェクト試験計画書であったり、システム試験計画書のような特定のフェーズ用の試験計画書であったり、性能試験計画書のような特定の試験種別用の試験計画書になります。


試験計画のプロセス


具体的には以下の9つのプロセス活動と定義されています。

①背景の理解 ②開発の組織 ③リスクの識別と分析 ④リスクの軽減策 ⑤戦略
⑥人材と日程の決定 ⑦試験計画 ⑧合意の獲得 ⑨計画の通知

定義された活動の実行を通じて使用可能になるため、試験計画書の原案は完全な試験計画書が記録されるまでは徐々に詳細化されていきます。より良い計画書とするには、③~⑥の工程は反復して実行して改編することが必要です。

例えば、プロジェクトや製品提供品に新しいリスクの恐れがあると判明した場合や、既存のリスクからの脅威が変わったことが判明した場合は、「③リスクの識別と分析」を再考し変更することが大切です。また、リスク以外の原因(例:異なる試験環境の使用)によって試験戦略の変更が必要になると判断した場合、「⑤戦略」の再実行が必要となります。リスク以外の原因(例:開発からの試験対象項目の可用性の変更)のために試験の人材や日程の変更が必要になると判断した場合は、「⑥人材と日程の決定」の再検討が必要となります。

計画を作成する際に考慮するのが「①背景の理解」です。どんな仕事でも理想の環境だけではありません。現状の環境(背景)をしっかり把握し分析して計画しなければ「絵に描いた餅」であり、実行できなかった言い訳を作りやすくするだけです。計画されたものを監視してしっかり管理することが重要です。プロジェクトにはそれぞれの背景があり、どれも同じではありません。単純なパターンで計画されたプロジェクトほど、成功しないケースが多く見られます。
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目的と成果


試験計画の目的は、試験で採用される範囲と方法を開発し、同意し、記録し、関連する利害関係者へ伝達することです。そのことによって、早い段階で試験の資源や環境および他の要求事項を識別できるようにします。

試験計画を正確に作成できた場合、下記の成果が期待できます。

  1. 試験プロジェクトの仕事の範囲が分析され理解される。

  2. 試験計画に加わる利害関係者が識別され通知される。

  3. 試験で取り扱われるリスクが識別・分析され、リスク発現の合意されたレベルによって分類される。
  4. 必要な試験戦略、試験環境、試験ツールおよび試験データが識別される。
    例1) ツール・特別な装置・試験環境・事務所の場所
  5. 必要な人材と訓練が識別される。
  6. それぞれの活動の日程がたてられる。
  7. 見積りが算出され、見積りの正当性のための証拠が記録される。
    例2) 費用・人材および日程の見積り
  8. 試験計画書は全利害関係者から承認され配布される。


以上のように、何事も計画が重要です。「時間がないから」と計画書なしで進めているプロジェクトが散見されますが、最終的には失敗に終わるプロジェクトとなります。時間が無い時や予算が無い時こそ、しっかりした計画を作り関係者で合意して告知することが必要です。

藤井 洋一
藤井 洋一
■略歴  1985年 金融機関退職後、現在の会社を創業  2005年 一般社団法人IT検証産業協会の設立に関わり、ソフトウェア品質向上の活動を推進。2016年から会長を務め、2023年6月より監事として活動中  2013年 一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:ソフトウェア協会)においてソフトウェア製品の品質認証制度(PSQ認証制度)を委員長として制度設計、運用開始  2016年 一般社団法人IT団体連盟の発足に参加、理事及び政策委員として活動。2023年諮問委員会 副委員長として活動中  2018年 「情報銀行」認定制度の制度設計サポート  2019年 工業標準法に基づく試験事業者登録制度(JNLA)等に係る試験事業者技術委員会電磁的記録分野技術分科会委員  ■その他の活動  独立行政法人情報処理推進機構にて「品質説明力強化のガイドライン」作成委員として執筆  ソフトウェア製品の国際規格「ISO/IEC 25051」のJIS化委員