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第36回「ソフトウェア品質の新しい国際規格がリリース」 ~ソフトウェア品質の測定~

2016年にソフトウェア品質の測定を定めた国際規格がリリースされました。(現在はセキュリティを含めた改定版の作成が進んでいます)「利用時の品質」の測定を定めたISO/IEC 25022、製品品質の測定を定めたISO/IEC 25023の2つの国際規格です。
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国際規格について


この規格は、ソフトウェアの品質の定量化と可視化を可能とする規格として早くから望まれていた規格です。品質の測定方法として具体的な「算式」を提示していることが特徴です。例えば、測定量の要素としてテスト項目数、テスト工程障害数を定義し、項目数に対して障害数の割合を算出することで障害率(バグ率)を出します。

​​​​​​​この数値がデータとして蓄積されてくると、ベースライン値として100件のテストで障害件数の目安が可視化され、尺度として許容範囲が見えてくることになります。単体テストの場合、100件のテスト項目がある場合、許容範囲を0.8件と設定すると、この範囲内の結果をもって、次のフェーズに進めることや納品してもよいとの数値的な条件を明確に設定することが可能となります。




品質と測定 


これまで何度もお話しているように、ソフトウェア製品の品質を判断することは非常に困難です。そのため標準化する必要性があります。標準化とは、「品質要求に対する合意基盤の確立」、つまり要求を出す側と受ける側の共通理解であり、合意形成となります。「評価の客観性、反復性、定量性の確保」も重視します。結果の信頼性とともに信憑性を証明することが重要です。数値化して品質が向上している状況をグラフ等で明示することが可能となると、より測定された評価の信頼性が高まります。「受入れ、選定の拠り所となる評価方法基準の設定」については前項と重なりますが、これまで定量的な測定方法が定められていませんでした。一定の方法が認知されるようになれば、評価結果に対して誰でも解釈が一致します。特保のマークがあれば、購入者は体に良いと無条件に評価してもらえます。評価方法が確立できれば、ソフトウェア品質は画期的に進化すると思います。

国際規格がリリースされたからといって、即時にこれまでの問題が解決されるわけではありません。規格はあくまで必要な要求事項を定めてあるだけですから、これを元に実用レベルで解釈してモデルを作成する必要があります。今回の製品品質の測定を定めたISO/IEC 25023では「内部品質」と「外部品質」の測定に関する要求事項を定めています。

また、「利用時の品質」の測定を定めたISO/IEC 25022では、対象となるソフトウェアを利用した際の効果を品質としています。使用してみると業務の効率が良くなった。手作業では1時間かかっていた処理が、システムを導入すると5分で処理が出来るようになった。これは、利用時の品質の「効率性」となります。新システムを導入したことで、入力時の処理のレスポンスが向上し効率があがった。これは利用時の「満足性」であり、「快感性」「快適性」が改善されたとの判断となり、定量的に測定可能な品質となります。

​​​​​​​今回のリリースはISO/IECの規格書で英語表記なのでJIS化が期待されています。品質の専門家という自負がある私たちとしては、そこまで待てませんので、ひたすら翻訳して一日も早く実用化できるよう頑張ります。


藤井 洋一
藤井 洋一
■略歴  1985年 金融機関退職後、現在の会社を創業  2005年 一般社団法人IT検証産業協会の設立に関わり、ソフトウェア品質向上の活動を推進。2016年から会長を務め、2023年6月より監事として活動中  2013年 一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:ソフトウェア協会)においてソフトウェア製品の品質認証制度(PSQ認証制度)を委員長として制度設計、運用開始  2016年 一般社団法人IT団体連盟の発足に参加、理事及び政策委員として活動。2023年諮問委員会 副委員長として活動中  2018年 「情報銀行」認定制度の制度設計サポート  2019年 工業標準法に基づく試験事業者登録制度(JNLA)等に係る試験事業者技術委員会電磁的記録分野技術分科会委員  ■その他の活動  独立行政法人情報処理推進機構にて「品質説明力強化のガイドライン」作成委員として執筆  ソフトウェア製品の国際規格「ISO/IEC 25051」のJIS化委員