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第41回「ローカライズとカルチャライズ」

ITの話になると北米欧州が中心となりますが、2016年ごろに大きな動きが出たのが東南アジア諸国連合(以下、ASEAN)です。


​​​​​​ASEAN諸国とIT市場の成長

2016年ごろ、中国のマーケットを目指した日本のIT企業は、オフショアで現地を使うことは出来ましたが、IT製品を売り込む事には全敗と言っていい状況でした。特にソフトウェア分野では、ソースコードの提供を求められるようになってから、進出計画をまったく聞かなくなりました。コラム37号で台湾の事情を書きましたが、台湾企業を経由して販売しようとしたケースはありますが、成功した事例は聞こえてきません。韓国においても言語の問題があり同様の結果になったと聞いています。

その中で急速に注目されてきたのが東南アジアのASEAN諸国です。インドネシア、マレーシア、タイ、カンボジア、ミャンマー、そして、ベトナムも注目されてきました。「ここにインドが加われば、中国以上の巨大マーケットが出現する」という兆しがあり、当時からビジネス的にも注目していました。


海外進出と日本企業の課題

海外進出の注意点は、規格の違いです。コラムのはじめに2層式の洗濯機の話を書きましたが、日本の当時の洗濯機は、回転中でも追加で洗濯物が入れられるように蓋を開けると急停止して安全を担保していました。ところが、諸外国の仕様はそもそも回転中には蓋が開いてはいけない仕様です。それを知らないメーカーが輸出をして大量クレームとなり大きな損害を出した事例もあります。今となっては笑い話です。

現地の仕様に合わせることをローカライズと言いますが、東南アジアのメリットは言語的に英語が通用している点にあります。ホテルでも大型ショッピングセンターでも英語は普通に通じ、IT系では仕様書が英語で表記されていることが大半です。標準規格も欧米準拠となっています。製品を販売しようとした場合のローカライズが比較的容易で、共通化が図りやすいです。

問題がもう一点あります。それは「カルチャライズ」、文化・宗教の違いです。日本でもっともグローバルなソフトウェアはゲームソフトです。世界中で販売できてすごいと思いますが、実は大変な苦労があります。それがカルチャライズです。

例えば、宗教上の理由で肉を食べてはいけない国があります。ゲームの中で肉を食べるシーンがあった場合、それを別のものに変更することが求められます。女性の顔を隠す習慣がある国ではキャラクターの造形に配慮が必要であり、決闘シーンで流血の描写があると禁止される国もあります。色の制限や日本人には想像できない制約などが存在します。これらを書き換える作業がカルチャライズです。これを怠ると、まったく売れない製品となります。


中小企業としてのビジネス展開

中小企業がこうした対応のために、一からすべて調べると莫大な費用が必要です。そこで、業界団体としてマレーシアのテスト事業者と情報交換を行っています。東南アジアではマレーシアを中心に品質の一環としてローカライズとカルチャライズの対応をする検証会社が複数設立されています。東南アジアマーケットに興味を持たれたら、ぜひ調べてみてください。

藤井 洋一
藤井 洋一
■略歴  1985年 金融機関退職後、現在の会社を創業  2005年 一般社団法人IT検証産業協会の設立に関わり、ソフトウェア品質向上の活動を推進。2016年から会長を務め、2023年6月より監事として活動中  2013年 一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:ソフトウェア協会)においてソフトウェア製品の品質認証制度(PSQ認証制度)を委員長として制度設計、運用開始  2016年 一般社団法人IT団体連盟の発足に参加、理事及び政策委員として活動。2023年諮問委員会 副委員長として活動中  2018年 「情報銀行」認定制度の制度設計サポート  2019年 工業標準法に基づく試験事業者登録制度(JNLA)等に係る試験事業者技術委員会電磁的記録分野技術分科会委員  ■その他の活動  独立行政法人情報処理推進機構にて「品質説明力強化のガイドライン」作成委員として執筆  ソフトウェア製品の国際規格「ISO/IEC 25051」のJIS化委員