第14回 日本の自動車が北米で売れる理由
企業やある製品、サービスの持つ価値として「ブランド力」「ブランディング」という言葉が使われることがあります。
これは一概に品質だけのことを指しているのではありません。その企業、製品にまつわるストーリーや世界観、価値観に消費者が共鳴することでブランド力は高まっていくものです。ただ、根底にあるのはやはり品質で、他のものは確かな品質の上にしか成り立たないというお話をしたいと思います。
ヒヤリハットどころではない
私は輸入車が好きで、これまで色々な車に乗ってきましたが、ほんの一時期、“砂漠のロールスロイス”と言われたとあるイギリスの車に乗っていた時期がありました。これがまあ本当に、びっくりするほど不具合が多かったんです(笑)
細かい事案は色々あったのですが、手放すきっかけになったのはブレーキ故障でした。車高調節ができるのは良かったのですが、ある時エアーがもれて車体が傾いてしまいました。「え?」と思ったのもつかの間、コンピュータ自動診断が作動して色んなエラーが出るわ、ブレーキがスカスカになって全く機能しなくなるわで、もう頭が真っ白になってしまいました。結局サイドブレーキで停止させたのですが、これには身の危険を感じました。
それまでの不具合の際も、修理の部品代や取り寄せの時間など、フラストレーションがたまることが多かったのですが、ある程度しょうがないかという気持ちもあって乗っていたのですが、その件があってきっぱり手放すことにしました。ブレーキ故障の際のディラー担当者の方は「イギリスの車ですから、仕方がないところがありますね」とおっしゃっていましたが、これで命を落としたり、他の方を巻き添えにしたりする状況であったことを想像すると恐ろしくなりました。
客観的な指標を参考にするということ
大手調査会社JDパワー・アンド・アソシエイツは「米国自動車耐久品質調査(VDS)」という調査を定期的に発表しています。この調査は、新車購入後3年が経過した時点において、直近1年間で経験した車の不具合について調査しており、3万人以上のユーザーを対象としています。VDSのスコアは100台当たりの不具合指摘件数によって算出され、スコアが低いほど耐久品質が高いと判断されます。
最新の2021年2月に発表されたブランド別ランキングでは、トヨタ「Lexus」が高級車部門で1位、総合でも1位を獲得しています。三菱が13位、マツダが14位、20位にスバル、22位に日産、28位にホンダとなっています。
私がこの調査に注目し始めたのは2013年ごろからですが、そのころと比べて日本のメーカーの順位が下がって韓国メーカーが伸びているような印象を受けました。2021年の大衆車部門1位の韓国の起亜「Kia」は、総合でも3位となっています。
図.ブランド別総合のPP100ランキング(出所:J. D. Power)
購入した車両に不具合を感じなかったとするユーザーが次の購入時にも同じブランドのものを購入する確率は54%と指標が出ており、不具合を感じた場合の購入継続率は41%に下がり、実に13%も次回のユーザー獲得率が落ちるそうです。このVDSの調査は米国で関心度が高く、販売実績に直接影響を及ぼすため、各自動車メーカーは品質に注力して取り組んでいます。
第三者による検証の重要性
いかに見た目がよくても、品質という中身が伴わなければブランドイメージが大きく損なわれるというのは、自動車に限らず、どの業界、どの商品にも言えることです。ただどの分野でも、米国のVDSのような第三者によるしっかりとした検証結果を参考にして買い物ができる状況であればよいのですが、日本においてはそのような文化がそれほど根付いていないのが現状です。
たとえば化粧品業界で、仮にあるブランドが「動物実験をしていない」「石油系の成分を使用していない」という魅力的なブランドコンセプトを謳って、美しいパッケージで売り出されていたとしても、それを使うことで多くの人に炎症が起きたり、健康被害が出てしまったりしては、そのコンセプトやストーリーは全く意味をなさないわけです。
しかし、検証される機会がない状況や特別な認証制度のない状況下で、かつ被害が大きな問題として取りざたされていない場合、その製品が市場からいきなり消えるということはないでしょう。これではメーカー側としても、品質よりもパッケージやコンセプトを優先させて取り組む方が売り上げにつながるという発想が生まれやすく、業界として不健全な在り方になってしまいかねません。もちろん個人の感想レベルであれば、ネット上で探せば探すだけ出てくるのでしょうが、結局どれがいいのか分からないという混乱が生じてしまいます。あくまで例として化粧品を取り上げましたが、他の業界でも同じことです。
私は長年ソフトウェアにおける第三者検証の分野に携わってきて、少なからず発信や啓蒙を行なってきました。ただ、より消費者に近い分野でさえその文化が根付いていないところを時折見かけると、まだまだ道半ばだなと思うことがあります。各業界が第三者検証に対し前向きに取り組めるように、まずは私の足元のIT分野において着実に成果を出していく必要があると改めて感じます。