第15回 ISO/IEC国際標準化会議
今日は私が2013年に参加した国際会議の裏話をしようと思います。
その年の11月、フランスで行われたISO/IEC25000シリーズの国際規格に関する会議※1 に私は参加してきました。この会議自体の目的としては、現状に合わせて規格内容を更新したり、必要に応じて新しい規格を作成したりするといったことです。各国の会議の参加者としては、大半が大学教授や博士号をもった企業の研究者の方などが委員として選ばれ出席し、日本の情報系では情報処理学会の会員が委員となって参加しています。
採択までの流れ
私が参加した2013年の会議の流れとしては、専門WGに分かれて会議を行い、修正・加筆された文書はその場でISO本部が管理するサーバーに登録され、当日参加できない委員からの意見も即時で受け付ける仕組みとなっていました。
最終的な合意がとれると、国際標準(IS)文書として出版されます。なんとなく国際会議と聞くと、何百人も入る大きな会場で話し合いが行われ、採択もさぞかし厳かに、というイメージがあるかもしれませんが、それは市場が成熟していたり社会的影響度が大きい規格の話です。私が参加したソフトウェア品質に関する委員会はこじんまりしていて、WGへの出席者としても25名程度で協議は進められました。
思いのほか和やかな雰囲気でしたが、それでも、たとえば原案が事務局側で準備されていて会議ではそれを審議するだけ、というのではなく、一文一文をしっかり読み込み、他の規格との整合性を確認していく作業なのでかなり高い集中力が求められます。それこそ一言一句、表現が標準的か(各国でローカライズした場合でも、同じ意味として受け取れる表現になっている)どうかを、徹底的に話し合って決めていきました。その場で決まったことが、国際標準規格ISO/IECとして定められ、それが品質を維持する「ものさし」となり「はかり」となるわけですから、参加者の数に関わらずこのWGでの協議は非常に重みがあるように感じました。
世界は広いが悩みは同じ
この会議での私の役目としては、日本が制度化したPSQ認証制度※2についてのプレゼンと、同様の制度を持っている国との相互認証の仕組みづくりを目指すための交渉を行うことでした。つたない英語力ではありましたが、結果としてフランス、韓国との間では具体的な契約作業を行うこととなり、また当時制度がまだなかった中国やイギリス、それにチェコの委員とも意見交換を行うことができました。
制度化が進まない背景としては各国の委員がみな口をそろえて、メーカー側の意識がまだその域に達していないこと(「不具合があったら都度直せばいい」というような感じですね)を挙げていて、その壁をどのようにして超えていくかということに頭を悩ませている様子でした。私たちも制度化する以前は同じことで悩んでいましたから、彼らの気持ちは非常によく分かり、世界でソフトウェア業界を盛り立てていくために色々な情報共有を行ないました。あれから10年経ちましたが、今では委員会の規模も大きくなったと聞き及びます。もう一度出席したい気持ちもなくはないですが、しばらくの間に抜けてしまった英語力をまた詰め込みなおさなければならないのかと思うと気が遠くなります。やはりここは若い人たちに任せたいですね。
※1 2013.11.18-22 正式にはJTC1 SC7/WG6というソフトウェアの品質に関する国際標準規格を検討する会議。ISOは国際標準化機構と呼ばれ、民間ベースで運用されている組織であり、IECは国際電気標準会議を指し、ソフトウェアを含む情報分野はISOとIECが共同で会議を開催しJTC1と呼ばれている。日本は日本工業標準調査会(JISC)が窓口となっており、情報系は情報処理学会の会員が委員となって参加する。
※2 PSQ認証制度…パッケージソフトウェア認証制度。詳細に関しては過去のコラムをご覧ください。