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第18回 利用時の品質から学ぶ(有効性について)

これまでのソフトウェアの製品品質モデルに対して、利用時の品質という考え方がISO/IEC 25010で取り入れられています。製品そのものだけではなく利用(運用)する場合においての品質も考慮すべきという考え方です。製品そのものがいくら素晴らしくても、利用する側が考慮されていなければ良い品質といえないということです。これはシステムに限ったことではありませんので、是非参考にしてほしい考え方です。



品質特性における“利害関係者”について

利用時の品質特性は ①有効性 ②効率性 ③満足性 ④リスク回避性 ⑤利用状況網羅性 の5つに規定されています。製品が利害関係者に及ぼす影響を特性づけています。なおかつ、“異なる利害関係者”の視点に立つことが必要であると規定されています。


ここで言う“異なる利害関係者”とは誰のことを指すのでしょうか。具体的には、大きく3つに分類されます。


  1. 一次利用者:
    システムを実際に利用している人を指します。例えば、企業で会計処理や給与計算でシステムを利用している人ということになります。
  2. 二次利用者:
    支援を提供している人を指します。システム管理者やネットワーク管理者、それにシステム保守担当者やセキュリティ管理者です。またコンテンツプロバイダもこれに当てはまります。
  3. 間接利用者:
    システムを直接利用はせず出力したものを受け取る人を指します。企業においてシステムへの入力は主に経理担当者が行いますが、ここでは試算表や財務諸表を受け取って分析する立場の人のことを言います。

 
皆さま、ここまでの話はいかがでしょうか?品質の要求事項は、利害関係者の観点から定義することが望ましいと規定されているということです。当社の取引先である大塚商会様における「お客様の目線で信頼に応え・・」というスローガンはまさに利用時の品質を重視した方針と言えます。ものづくりにおいて、顧客ニーズやマーケットの把握、分析することはもちろん重要ですが、品質も同じということです。


その上で、一次利用者だけではなくその後のメンテナンスの容易さやサポートまでを考え、直接利用しない人への影響までを考慮するというのが「利用時の品質」の考え方です。そして、この考えに即してものづくりを行なうと、「品質の測定」が可能となります。これは非常に重要なポイントです。品質特性ごとにお話ししましょう。



品質特性における「有効性」について

有効性とは「明示された目標を利用者が達成する上での正確さ及び完全さの度合い」と規定されています。解釈としては、指定された利用状況で、利用者が正確かつ完全に、指定された目標を達成できるソフトウェア製品の能力を指します。


有効性の測定としては、その目標を達成しているかどうかを評価するわけですが、例えば、期待する目標が規定した様式で2ページの文書を正確に書き写すことであるならば、正確性はつづりの間違いの数となります。また、規定した様式からの逸脱の数並びに書き直した文書の単語の数を、元の文書の単語の数で割った完全性から特定または測定することができます。


このように考えていくと品質も測定可能となり、品質向上が数値化され可視化が可能となります。


藤井 洋一
藤井 洋一
■略歴  1985年 金融機関退職後、現在の会社を創業  2005年 一般社団法人IT検証産業協会の設立に関わり、ソフトウェア品質向上の活動を推進。2016年から会長を務め、2023年6月より監事として活動中  2013年 一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:ソフトウェア協会)においてソフトウェア製品の品質認証制度(PSQ認証制度)を委員長として制度設計、運用開始  2016年 一般社団法人IT団体連盟の発足に参加、理事及び政策委員として活動。2023年諮問委員会 副委員長として活動中  2018年 「情報銀行」認定制度の制度設計サポート  2019年 工業標準法に基づく試験事業者登録制度(JNLA)等に係る試験事業者技術委員会電磁的記録分野技術分科会委員  ■その他の活動  独立行政法人情報処理推進機構にて「品質説明力強化のガイドライン」作成委員として執筆  ソフトウェア製品の国際規格「ISO/IEC 25051」のJIS化委員