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第20回 ロボット技術で日本発の国際規格

10年前の2014年4月28日の日本経済新聞に「生活支援ロボット」の分野で日本発の国際規格が発行され、その取得をしたという記事がありました。まさにこれから日本の企業が取り組むべき課題を解決した快挙だと思いました。


この快挙を達成したのは、つくば研究学園都市にある「サイバーダイン」という医療や介護福祉を支援するロボットスーツ「HAL」を開発した会社です。CEOの山海さんは筑波大学の教授であり研究者です。


私は2004年に会社が設立された際に筑波大学の講演会に参加し、おもしろい考えをする研究者だと思ったので、その動向に注目していました。商品的には“ロボットスーツ”と表現されていますが、山海先生としては、本当はロボットではなくサイボーグと言いたかったのではないかなと思います。


というのは、講演会でも「ロボットは脳まで機械」であり「自分が研究したいのは、脳は人間であること」「私は鉄腕アトムではなくサイボーグ009が好きだ」とお話しされていました。人間は身体に指令を出すときに、脳からの微弱な電気を流していることに注目し、その指令パターンを徹底的に研究しデータベース化することで、動きを「HAL」へ正確に伝えることに成功し、製品化に至ったと思います。「HAL」を装着すると、力のない女性でも60kgの米俵を楽々と持ち上げることができるようになります。体位交換や移動ごとのアシストが必要な介護の現場で相当の役割を果たすことが期待され、高齢化が進む日本に明るい話題です。


そんなすばらしい製品ですが、世に出す際には大きな障害がありました。安全基準や製品品質その運用基準等の法整備がなく、市場に流通させる基準がなかったのです。そこで山海さんは、もっとも厳しい医療機器の品質管理規格を取得し、欧州連合(EU)が規定している「CEマーク」、米国の「UL認証」等々の規格取得も行ないました。その上で、国際的な安全規格と安全性を検証する基準や方法を決め「ISO13482」を作成し正式に発行し取得することで問題解決しました。山海先生も「安全規格ができたことで、生活支援ロボット事業の参入障壁は下がる」とのコメントを出されていることでも、その社会的意義の高さがわかると思います。


サイバーダイン社は、「サイバニクス産業」という新しい産業分野を提案して2014年に上場して事業会社として多くの研究資金を集め注目されていますが、なかなか利益確保には苦労しているようです。


蛇足ですが、先の講演会で米国に渡米した際に山海先生がお話しされていたエピソードを思い出しました。研究が進み、先生が学会で発表しようと渡米したところ、ある組織から軟禁され事情聴取を受けたそうです。そのある組織の調査官は、山海先生の研究が軍事目的で利用されるのではとの懸念を強く持っていて、その研究費がどこから出ていて、どれくらいの投資がされているのかを聞いてきたそうです。先生は、研究目的はあくまで介護であり、また研究費についても通常の大学の研究費用の範囲で数億円での研究成果であると説明したそうですが、まったく信じてもらえなかったとおっしゃっていました。


米国では、兵隊の負荷軽減の目的で数百倍の予算で研究が行なわれているそうです。映画の世界ではなく、ロボットスーツをまとった兵隊が戦争をする時代かもしれません。それゆえ日本の平和利用の取り組みはもっと高く評価されるべきだと思えます。


藤井 洋一
藤井 洋一
■略歴  1985年 金融機関退職後、現在の会社を創業  2005年 一般社団法人IT検証産業協会の設立に関わり、ソフトウェア品質向上の活動を推進。2016年から会長を務め、2023年6月より監事として活動中  2013年 一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:ソフトウェア協会)においてソフトウェア製品の品質認証制度(PSQ認証制度)を委員長として制度設計、運用開始  2016年 一般社団法人IT団体連盟の発足に参加、理事及び政策委員として活動。2023年諮問委員会 副委員長として活動中  2018年 「情報銀行」認定制度の制度設計サポート  2019年 工業標準法に基づく試験事業者登録制度(JNLA)等に係る試験事業者技術委員会電磁的記録分野技術分科会委員  ■その他の活動  独立行政法人情報処理推進機構にて「品質説明力強化のガイドライン」作成委員として執筆  ソフトウェア製品の国際規格「ISO/IEC 25051」のJIS化委員